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2006.03.02 (木)

「 中国で噴出する自由への渇望 」

『週刊新潮』 '06年3月2日号
日本ルネッサンス 第204回

人々が情報を手にしたとき、物事は大きく動いていく。その動きを止めることは誰にも出来ない。

ベルリンの壁が崩れ、ラジオやテレビで情報を知った東欧諸国の人々は、ルーマニアを除き、あっという間に無血革命で体制を転換した。もはやソビエトには鉄槌を下す力がないと知ったとき、西側の自由社会の情報を得ていた東欧の人々は、迷うことなく共産党一党専制支配を捨て去ったのだ。

中国政府が情報の持つ力、事実を知った国民の力を恐れる理由は、彼らが国民の総意を反映した存在ではないからだ。だからこそ、中国政府は、国連のインターネットに関する作業部会への中国代表の表現によると、「世界で最も充実した総合的なインターネット監視システム」を築き上げ、「リアルタイムで24時間完璧に検閲出来るメカニズム」を駆使しているのだ。

右の中国代表は「中国政府の体験が国際社会のインターネットガバナンスにとって教訓(lesson)となることを希望する」とさえ述べた。中国当局の人間は、情報は政府がコントロールするもの、政府にとって都合のよい情報だけを出すものだと、心底、信じているのであろう。

米国下院で2月15日に開かれた公聴会では、このような中国の現状と、米国のヤフーやグーグルといった強力なインターネット検索企業が中国政府の言論弾圧に関わっていることへの強い不満が噴出した。その席では「中国のインターネットは自由のための技術か、弾圧のための手段か」と題して濃密な議論が交わされたが、2人の下院議院による問題提起のスピーチは本質を突いていた。

公聴会の委員長を務めたクリストファー・スミス議員は、米国の技術が、中国政府が国民を冷酷非情に弾圧し搾取することを可能にさせているとして、次のように述べた。
「私は、中国での人権弾圧についての公聴会を25回開いてきた。その間に中国経済は成長し改善されてきたが、人権弾圧の状況は極悪状態のまま、変化していない」

スミス議員はさらに、中国の経済改革が言論、表現の自由の擁護に全く役に立っていないとし、「(政治犯などに)強制労働を科す労働改造所には約600万人が囚われている」と語った。

「悪魔の共犯者」とは

世界に名だたる人権弾圧国家の中国で、自由と民主主義を代表する国の情報産業の旗手ともいえるインターネット企業が、「政府による大弾圧のためのサイバーハンマー」として機能していること、結果として少なくとも、市民49名、ジャーナリスト32名が中国政府に逮捕、投獄されたと同議員は烈しく述べた。

ヤフーが中国の秘密警察に提供した情報によって、昨年4月には「中国商報」の記者・師濤氏が投獄された。それ以前の2003年12月にも別の人物が“政府転覆”を図ったとして8年の刑を言い渡されたが、この人物は何年も前から国際社会でも広く知られている中国の地方役人の腐敗振りについて、オンラインで論じただけだったのだ。

なぜ、ヤフーは人々の情報を中国政府に提供したのか。ヤフー側は仕事先の国の法律や習慣には従わなければならないと主張する。この企業論理にスミス議員は反論した。

「60年前、もし秘密警察がアンネ・フランクの隠れ場所を尋ねたら、その国の法律に適合するために、正しい答えを当局に渡すべきだと言うのか」「我々は抑圧者の側に立つのではなく、被抑圧者の側にこそ立たねばならない」

公聴会に呼ばれた、グーグル、ヤフー、シスコシステムズ、マイクロソフトの各企業は「中国政府が秘密警察とプロパガンダという全体主義国家体制を支える二本の柱を打ち立てることが出来るよう教唆し、助けた」と弾劾されながらも、有効な反論は出来なかった。

こうした非難は全てもっともだ。興味のある人は試してみるとよい。「民主主義」「中国・人権」「中国・虐待」「天安門事件」「法輪功」などのキーワードで、通常のインターネットとGoogle.cnで検索して較べるのだ。「天安門」では、通常の検索では、私たちの知っている天安門事件の悲劇、人民解放軍による国民への弾圧の映像などを見ることが出来る。だが、中国版の.cnは全く違う。時によって、天安門でくつろぐ笑顔のカップルが出てきたりする。

それでもグーグルは「情報がないよりはまし」との立場を維持し、対してスミス議員は「グーグルは悪魔の共犯者となった」と言ってのけた。
「限定された情報は偽の情報を作り出す。半分の真実は真実ではない。嘘である。嘘は情報の欠落よりもより大きな害をなす」というのが同議員の論法である。

人権弾圧と地殻変動

このような議論を聞くとき、米国は様々な問題を抱えてはいるが、その中枢は実に堅固だと思わざるを得ない。アブグレイブ収容所で米軍がイラク人に行ったことを見れば、米国の病巣は深いと言わざるを得ない。だが議会では、中国を相手に、この公聴会のように厳しい批判の矢を放っている。堅固な基本は揺らいでいないのだ。

一方、中国国内にも、言論、表現の自由を求める見逃せない動きがある。中国共産党元宣伝部長だった人物ら13名が、週刊紙『冰点』の停刊処分に抗議声明を発表したこともそのひとつだ(『産経新聞』2月17日)。同紙は中国共産主義青年団機関紙「中国青年報」の付属週刊紙で、発行停止に抗議した編集長は更迭されたが、新聞自体は3月から再び発行を許されるそうだ。

だが、政府の決定した発行停止や復刊に元宣伝部長職の幹部らまでが抗議したことの意味は大きい。巨大な地殻変動はすでに地層深くで始まったといえる。

『冰点』問題に端を発して、今では党宣伝部を解体せよとの主張も出てきた。党宣伝部こそ、情報操作の総本山だ。北京大学助教授の焦国標氏は『中国宣伝部を討伐せよ』という著書を物し、03年に邦訳が草思社から出版された。氏は同書出版のあと、北京大学を辞職に追い込まれた。この春には日本を訪れる予定になっていたが、来日の報はまだない。恐らく、出国許可が与えられないのだ。

中国政府にとって人権弾圧は日常茶飯事、人権や自由に関して彼らの心は麻痺しているのだ。しかし、自由を求める心は、麻痺した心よりはるかに強靱だ。中国国内の、自由への渇望とその実現に向けての強靱なる精神は、間違いなく国際社会の支持を受けている。将来の勝敗は自ずと明らかだ。だからこそ、自由を求める中国の地殻変動に、日本こそが強い支持を与えていくことが大事なのだ。親中派として中国政府の顔色ばかり窺っていては、やがて、中国国民の敵となりかねない。

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